「感情の橋」とは?
いまの感情が過去の”重要な体験”につながる仕組み

   

感情ケア

ヒプノセラピーにおける理解と活用

みなさんは「感情の橋」という言葉を聞いたことがありますか?

この言葉は「共感によって自分と他者をつなぐ」という意味で使われることがありますが、ヒプノセラピーにおける「感情の橋」はそれとは異なります。

ヒプノセラピーでの「感情の橋」とは、クライアントがいま現在感じている「感情」が、過去のさまざまな場面で経験した「同じような感情体験」とつながっていること、
また、その体験を過去にさかのぼってたどると、「その感情を初めて体験した」「幼少期の重要な体験」にたどり着く、という仕組みを指します。

ヒプノセラピーでは特に、幼少期の「傷ついた体験」を癒すことで現在の問題の解決につなげていくために、もっとも重要な概念であり技術のひとつです。

なお、英語では「affect bridge」と表され、「感情」は体感覚を伴った「情動」に近いものとみなされています。
SORAヒプノシスでは、感情とともに体感覚も大切に捉えながら過去の体験にさかのぼります。

今回の記事では、この「感情の橋」がヒプノセラピーでなぜ重要なのかを解き明かします。

記憶はどのように保管されているのか――タグと「感情の種」

「感情の橋」の仕組みは、人間の記憶の構造と関連しています。

私たちの潜在意識の中にある記憶は、「感情」によってタグ付けされ、分類されて保管されています。
なかでも特に感情が強く動いた記憶には、いわば「旗」が立てられており、主に「危険から身を守るための重要な情報」として、同じような記憶が、まとまった状態で保管されています。

生まれて初めてその感情を感じた体験を、英語では、「Initial Sensitizing Event (ISE)」、当協会が提唱するSORAヒプノシスではわかりやすく「感情の種」と呼んでいます。
幼いころに作られた「感情の種」は、その後の「似たような体験」に対して瞬時に同じ感情を呼び起こし、同じような出来事としてグループ化されているのです。

70年代の心理学者が提唱

「感情の橋」は、1971年にアメリカの心理学者ジョン・G・ワトキンスが国際臨床・実験催眠学会誌に発表した論文において提唱した技法です。
ワトキンスは第二次世界大戦中、米軍の心理士として従軍し、戦争による心的外傷を抱えた兵士への臨床経験を積みました。
その実践の中から、「感情」を手がかりとして現在から過去の幼少期へと移行するこの技法を体系化しました。

画像はイメージです

感情の橋を用いた年齢退行は信頼性の高い技術と評価され、現在もヒプノセラピーをはじめとする心理セラピーで広く用いられています。

感情の橋で、幼少期の喜びをたどる「ポジティブ退行」

感情の橋をたどるヒプノセラピーでの年齢退行は、現在抱えている問題を解決するセッションの際に、主に、「怒り」「悲しみ」「恐怖」「罪悪感」などのネガティブな感情を対象にしますが、ポジティブな感情から過去の体験にさかのぼることもできます。
今回は事例として、私自身のクライアントとしての体験をご紹介させてください。

まず、私の現在の「大きな本屋に入る瞬間のわくわくとした感情」から、感情の橋をたどりました。
最初にたどり着いたのは、小学生の頃に駅前の小さな書店で立ち読みをしていた場面でした。
次に浮かんだのは、2、3歳ころ、家の近くの川の土手に立ち「今日は右か左のどちらへ行こうか」と思案している場面です。
そして最後にたどり着いたのは、はいはいをはじめた頃の自分が、ほほえむ母に野原の上に降ろされ「好きに進んでごらん」と言われている場面でした。
いずれの場面にも、共通して同じ感情――未知の世界へのわくわくとした期待の感覚――が存在していました。

この体験を通じて、現在の自分が持つその感情が、母と父に育まれたギフトであるという感覚をいだき、両親に対する感謝の想いでいっぱいになりました。
そして、私がこれまで、旅行や仕事での出張、引っ越しなど、新しいスタートの場面で躊躇なく、「わくわくと」希望を抱いて飛び込めるのは、このときの感覚から生まれているのだという確信になりました。

その感情は、鎮めることも、育むこともできる

ヒプノセラピーの特長のひとつは、クライアント自身が主体となって、自らの傷を癒し、自己変容・成長へと導くセッションであることです。
クライアントが、セッションの中で、その感情をはじめて経験した場面——すなわち「感情の種」——にたどり着いたとき、その感情の由来と構造がはっきりととらえられます。

すると、その後は、その感情を自分のものとして捉えられるようになります。
ある感情を鎮めることもできるようになりますし、改めて自分の大切なものとして持ち続けることもできます。
クライアント自身が、その感情体験の反応に支配されることなく、自分の力で主体的に、扱い方を選べるようになるのです。

「感情の橋」は、そのための重要な技法であり、クライアントを癒しと自己変容に導くための、ヒプノセラピーに欠かせない大切な道筋といえるでしょう。
(野崎いつこ)

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