(全3回・連続掲載予定)
Part 1 「痛み」はあなたの敵ではない!?
Part 2 感情を使った痛みからの解放(アメリカでの試み)
Part 3 脳を騙して痛みを取り去るヒプノセラピー(フランスの医療現場より)
Part 3 脳を騙して痛みを取り去るヒプノセラピー
(フランスの医療現場より)
「痛み」についての意外な事実を徹底解剖したPart1に続き、Part2では脳と痛みの関係に迫りました。思考が痛みに関わっていること、そして感情を使った痛みの解放を試みる治療法がアメリカにはある、というお話をさせていただきました。
最終回となるPart3では、私が現在住んでいるフランスの医療現場から、人の脳の仕組みを利用して痛みを取り去るヒプノセラピーのご紹介をしたいと思います。
脳に騙される私たち
突然ですが、あなたは「注射」という言葉を聞いたとき、どのように感じますか?
- あのちくっとした感覚を思い出してお腹がキュッとなる
- 痛いのは嫌だなぁと気が重くなる
- なんとなく心臓がバクバクする
当てはまる感覚はありますか?
実際には体に針が刺さっていないのに、このように心や体に反応が出る。
これは脳の勘違いです。
私たちの意識は、「いま本当に目の前にあること・実際に起こっていること」と、「想像の中のできごと」の区別をしません。ですから、脳は過去に受けた予防接種や採血の時の針を思い出すだけで、体に反応を起こすのです。
その証拠に、一度も注射を受けたことのない小さな子は、注射針を見ても反応が起こりません。注射針を見て逃げ回る子どもは、以前にその注射を受けて 「痛かった」 という記憶があるから恐怖を感じて逃げ回るのです。
人は知らないものや、わからないものには反応できません。
人間の脳は、学習を経て複雑な思考や計算処理などが可能になりますが、一方で、この注射の想像に見られるような単純な反応のように、大人になってもまるで「子どもみたい」な短絡的な性質を持ち続けています。
さて、そのような脳の性質をうまく利用した面白い試みが、フランスでは行われています。
麻酔大国フランス
私が現在暮らしているフランスは、 薬の大消費国です。
中でも、鎮痛剤と抗生物質の消費量は欧州の他の国に比べて2倍近く多くなっており、
「痛みに弱い国民性」 「薬への依存率の高さ」 を指摘する声もある中、自然な方法で痛みを緩和する方法を選択したいという人も昨今増えつつあります。
その選択肢のひとつが、 医療現場で用いられるヒプノセラピーです。
フランスの医療機関には、 ヒプノセラピストの資格を持った看護師や精神科医、 心療内科医が常駐する施設も少なくありません。
麻酔師による麻酔の代わりにヒプノセラピーを用いた痛みの緩和を保険適用内で選ぶことができます。
フランスのお産は、8割が脊椎麻酔を用いた無痛分娩となっていますが、自然分娩を希望する妊婦、 また脊椎麻酔の際に必要な注射の痛みが怖いという妊婦や、 さまざまな事情で麻酔が受け付けられない妊婦に対して、ヒプノセラピーを用いた痛みの緩和が行われています。
また、出産だけではなく、 痛みを伴う検査や手術、 抜歯などにもヒプノセラピストによる声がけで行われる催眠療法を使って、 痛みの緩和が行われることがあります。
ヒプノセラピストがやることはとてもシンプル
セラピストは「あなたは今非常にリラックスしており、気分が良いです」といった言葉がけを患者にしていきます。
脳内で痛みや恐怖を感じている(心理的な)場所から離れることで、痛みや恐怖のない安全な(心理的な)場所へ連れていく、ということをやるのです。
医療機関によっては、セラピストの言葉がけによる誘導だけではなく、 3Dバーチャルリアリティスコープを用いて、手術室や歯科医の治療室にいる自分ではなく、例えばリラックスできるような森林や浜辺にいるような視覚的錯覚を与えて、患者をリラックスさせることもあるようです。

このように、フランスでは痛みを取り除くだけではなく、手術や麻酔の注射の痛みに対する恐怖心を取り除くためにヒプノセラピーが用いられることもあります。
例えば、出産時の硬膜外麻酔の注射の痛みと恐怖を取り除くヒプノセラピーを研究しているフランスのVéronique Waisblat医師によると、言葉がけによるヒプノセラピーを用いた結果、患者の痛みだけでなく、恐怖についても、30から40%ほど軽減されるという研究結果があるそうです。
ただ、ヒプノセラピーによる痛みの緩和を、薬剤と同じように数値で示すことは簡単ではありません。
薬の場合は、有効成分の量や身体への作用を客観的に測定できます
ですが、ヒプノセラピーはその方の潜在意識に働きかける方法です。痛みが主観的な感覚である以上、痛みの感じ方の変化を科学的に厳密な数値として示すことには、一定の難しさがあります。
ヒプノセラピー先進国であるフランスでも、その効果や作用の仕組みをより明確に示そうとする研究が続けられています。関心は高まりつつあるものの、科学的根拠の積み重ねは現在も進行中というのが実情です。

最後に・・・
痛みと脳と感情。
この3回にわたるコラムで、その関係性にご興味を持っていただけましたでしょうか?
痛みと脳と感情の三角関係は、まだまだ不思議な部分が多々あります。
痛みに悩むとき、鎮痛剤を使うのも決して悪い選択ではありません。しかし、
- 私たち人間には痛みに対する自己治癒力があること
- 痛みはコントロールできないと思っていること自体が思い込みであること
- 痛みは敵ではなく味方につけることができること
これらをわかっていると、痛みとの根本的な付き合い方も自ずと変わってくるかもしれません。
その痛みと付き合う有効な方法の一つに、ヒプノセラピーという選択肢があることに、希望を見出して下さったら、大変嬉しく思います。
パート1でご紹介しましたように、当協会の初級講座(潜在意識トリセツ講座)は、ヒプノセラピーの技法を用いて、痛みなどの「体の感覚」の扱い方を学ぶことができます。毎月開催され、ご案内もこちらでしておりますので、みなさまのご参加をお待ちしております。
